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先輩の声:受けた恩を回していますか

2014年12月
受けた恩を回していますか

友杉 貴茂(理工学研究科 博士前期課程 平成12(2000)年3月修了)

 突然の同窓会会報の原稿依頼に、正直戸惑いました。数多くいる卒業生の中で、一般の方よりも在学した期間が3年長く、あまり褒められたものではない私が依頼を受けてよいものかと悩みましたが、自らの人生を反省する良い機会になるのではとの考えに至り、結局、お引き受けすることにいたしました。

 私の経歴を簡単に述べると、平成6年に地球生命環境科学科に入学し、堆積学と古生物学を専門とする安藤寿男先生の研究室に4年在籍し、平成11年にやっと卒業できました。その後、同じ研究室で博士前期課程を修了し、古生物学の研究を続けるため、博士後期課程では九州大学に進学し、研究室が北海道大学に移動したこともあり同大学で平成18年に博士後期課程を修了することができました。そのまま研究者としての道を邁進できれば良かったのですが、長く研究を続けていくうちに研究者としての素養(基礎学力・発想等)に不安を感じてきたことや一身上の都合もあり、研究職の仕事は諦め、母が勤めていた全くの畑違いの港湾運送事業の会社に就職いたしました。十数年もの間、安藤寿男先生をはじめとした教育機関の方々にお世話になったにも関わらず、「恩返し」もないまま、研究者としての道半ばで離脱したことに、就職後も自責の念にかられることがしばしばありました。

 入社して4年は貨物の船舶への積卸作業の現場勤務でしたが、現在は本社に移り各部署の採算管理の支援指導と社内管理体制の維持整備を主とする業務を担当しています。社内調整や支援指導は容易にはいかず、各部署とのやりとりをもっと円滑に進める方法はないものかと苦慮していたところ、あるビジネスマン向けの講演に出会いました。講演内容は、売上至上主義の蔓延したビジネスの現場に、演劇の感動創造手法を導入して、社員の内側にある感動する心を育て、感動を生み出す創造性を育み、顧客と感動を共有できるビジネスを実現するといった話でした。その手法を転用、即効果とまではいきませんでしたが、演劇のように観客の気を引くちょっとしたサプライズを各部署とのやりとりの中に織り込むことを意識的に続けています。

 この感動創造手法の講演の中に、気持ちがあたたかくなるようなくだりがありました。それは日常で使っている「恩返し」ではなく、「恩送り」についてです。「恩返し」では誰かから受けた恩を、直接その人にお返しすることを言いますが、一方の「恩送り」は別の人に贈ることを言うそうです。「恩送り」は古くから日本人にある習慣だそうで、現在の私たちの間ではあまり聞き慣れない言葉になってしまったそうです。その講師の方は、「恩送り」という言葉を復活させようとさまざまな活動を続けられているとのことでした。

 まさにこの「恩送り」こそ、恩をお返しできていない私の気持ちを少し前向きにしてくれる素敵な言葉でした。年齢も40に差し掛かり、長い間お世話になった茨城大学を含め数多くの教育機関でお世話になった方々全てへの「恩返し」も難しくなってきました。せめて、次の世代や周りの方々への「恩送り」は忘れずに過ごしていきたいと思っています。

 学生の皆さんにお伝えする言葉としてふさわしくないかもしれませんが、現在はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を媒体に簡単に感動を共有することができる時代だと言われています。「感動の共有」がキーワードとなった今だからこそ、「恩」を社会で循環させる良い機会になるのではないでしょうか。皆さんも大学生活で受けてきた恩を「恩返し」や教育機関の枠を超えた「恩送り」を取り進め、社会全体で「恩」を循環するような社会を実現してほしいと願っております。

理学部同窓会会報,第17号(2014(平成26)年12月発行)より転載